――あそこにも暖炉があったような気がする。
綾菜は寮運営室の扉をノックした。
寮生に割りあてられた部屋のそれより、大きくて重厚な木の扉。
改装時に交換を免れたのかもしれない。
「誰もいないのかな?」
待っても返事がない。
綾菜は僅かに扉を開けて、中を覗いた。
部屋の主はいないらしい。ラッキーだ。
「失礼しまーす」
一応、礼儀を守って挨拶し、部屋へと入る。
白漆喰に腰板を張った壁。
出窓の上部には花と鳥のステンドグラスが使われて、古い洋館の雰囲気を色濃く残していた。
「好きだな、この部屋」
御影と真坂がいるときは、なかなかじっくり眺めることはできない。
綾菜はここぞとばかりに、部屋を歩きまわった。
明治時代のものだという蓄音機。
有名な会社のロゴマークにあったように、ホーンに耳を傾けてみる。
タイムスリップしたみたいで、自然と顔が綻んだ。
