「置いてきちゃったって……。いったい、何年前の話だ?」
「えっと、十六年前くらいかな。えへへ」
ごまかすように、笑顔を浮かべてみた。
綾菜自身、さすがに荒唐無稽だと思う。
だから、こっそり探そうと、久我が部屋にいないところを見計らって捜索を開始したのだ。
「見つけて、どうするんだ?」
「えっ?」
「母親、もういないんだろ? 形見に欲しいってやつか?」
入寮のときも思ったけれど、意外とプライバシーに踏みこんでくるひとだ。
湿っぽい話は、聞いてもつまらないはずなのに、ホント物好き。
「父に、渡したいんです」
「父親に?」
父親の話を気軽にできるほど、まだその存在には慣れていない。
ためらって口を開けないでいる間、久我は根気強く次の言葉を待ってくれた。
「うちの両親は結婚していなくて。私も父にはずっと会ったことがなかったんです」
「うん」
母を傷つけないように。
父を傷つけないように。
綾菜は言葉を一つ一つ選んで続けた。
