父の籍に入っていない事情は一言も話していない。なのに、援助などという表現をされるのはおかしい。
「……リングに刻んである名字が、オマエのと違う」
「あっ、そっか……。よく見ていますね」
リングは校章の横にローマ字で姓名が刻まれたデザイン。
指摘の通り、リングの文字は綾菜とは違う姓。
父は婿養子で、リングは結婚前の旧姓だとごまかそうと思ったが、やめた。
不本意とはいえ、ルームメートになるひとに嘘はつきたくない。
「女が男物を持っているのは目立つから。 ――まぁ、そのリングを身につけておくのはいいことか」
「どうしてですか?」
「男よけにちょうどいい」
母の形見がどうして男よけになるのだろう。
綾菜は首を傾げる仕草で、理解できていないことを伝えた。
「リハビリしてから世間にさらせと、御影が言ったのはこのことか……」
なぜか久我はため息をついている。
ますますわからないと、綾菜は首と一緒に身体まで斜めに傾けた。
「スクールリングを異性に贈るのが、特別なことなのはわかるか?」
「それくらいわかります」
そのために、イギリスを離れてこの学園に入学した。
母の願いを叶えるために。
