思いだして綾菜は涙目になった。
さっきの久我はすごく他人行儀で、明らかに綾菜と距離をおこうとしていた。
思いあたる原因といったら、成績くらい。
気にしないというなら、態度が変わった理由を教えてほしい。
「それは……。オマエにはわからないよ」
「言ってくれなくちゃ、ずっとわからないままです。私、久我さんをちゃんと知りたい」
口にしてはじめて綾菜は気づいた。
久我のことを知りたかったんだ。
幼い頃から寮で生活し、友人の家庭環境に不用意に立ちいらないことが身についている。
なのに、なぜだかわからないけれど、久我のことだけは知りたい。
「俺を知ったら、オマエはきっと逃げだす」
じっと見あげる綾菜から久我は目を逸らした。
わかってほしい。
綾菜は包んでいた久我の手をそっと頬へあてた。
「逃げたのは久我さんじゃないですか。私、距離を置かれて、どうしたらいいのかわからなかった……」
そっけなくされて辛かった気持ちが蘇る。
瞳から勝手に零れた滴が頬を伝い、久我の手の甲を濡らした。
「我慢がきかなくなるから、泣くな」
「我慢できないのは、私です」
