「……久我さんは、私にそんな話をしたことがないよ」
久我は、家族に関する話を一度もしたことがない。
「わざわざ話さなくちゃいけないようなことじゃないだろ」
御影はそっけなく言った。
確かにその通りだ。
「そうだけど……」
前の寮でも事情を抱えた友人たちはたくさんいた。
家族をいっぺんに失くしても、前向きに頑張れるひともいれば、ペットの金魚が死んで眠れなくなるほど苦しむひともいる。
受けとめ方はさまざま。
安易に同情したり、励ましたりすることは間違っている。
だから、久我の両親が離婚していたことに対してなにかを思いたいわけではない。
――ただ。
同じ部屋で生活している限り、本人が打ちあけなくてもなんとなく抱えている事情はみえてくる。
実際、綾菜についてかなりのことを久我は知っていると思う。
けれど、綾菜は久我をほとんど知らない。
毎日触れあって、たくさん話をしているのに、久我の背景はなにも見えてこない。
