「せっかくだから、借りていこうかな。このカードに名前を書いて箱に入れればいいんだよね」
綾菜は裏表紙に挟んである貸出カードを手に取った。
「琥珀の名前が何回もある。純也くんも」
今より幼い御影と真坂が、本を借りるために高等部の寮を訪れる。想像したら可愛くて笑みがこぼれた。
「純也は俺が借りようと思っていた本を必ず先に借りる。嫌がらせだよな」
光景が簡単に思い浮かぶ。中学のときも、きっと今と同じように仲が良かったのだろう。
「あれ? これ、久我さんの字。でも、名字が違う」
綾菜は見覚えのある字体に目を留めた。
中心がそろって整った字。
丸っこい自分の字と比べて何度もため息をついたから、よく覚えている。
「久我さんじゃないのかな」
名前の欄は隼人と書いてあるのに名字が違う。
どうしてだろう。
不思議に思って顔をあげると、御影が苦い顔をしていた。
「……お前は考えなしに本人に聞きそうだから教えてやる。久我は中一のときに親が離婚した。今は母親の名字。よくある話だ」
