「この寮が女子寮だったときは、地下室は立ち入り禁止にはなっていなかった。なぜだろうな、寮長さん」
久我はあからさまに寮長の部分を強調した。
口元には挑発するような笑みが浮かんでいる。
「地図があったんだろう? 男女混合になるドタバタで紛失したらしい。寮長だからといって、そんな昔のことまで責任がもてるか」
「オマエの性格がそれを許すのか?」
御影は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
寮の管理について、運営委員は大きな権限を持つ代わりに同じだけの責任を負っている。
寮内の地図を紛失した責任は当然、運営委員にある。
あまりに昔のことだからと突っぱねることは可能だ。
だが、人一倍責任感が強いことが、御影を一年にして寮長たらしめているといえる。
「運営委員会の蔵書をあたってみるが、難しいぞ」
御影が譲歩をみせた。
だが、探したからといって、今まで見つからなかったものが急に出てくる可能性は低い。
「その必要はない。あたりはついている」
「なに?」
御影が眉をあげた。
あたりがついているとはどういうことだろう。
久我は自分で見つけることができなくて、助けを求めたのではないのだろうか。
