「私を抱きしめる? 無理無理。気絶しちゃう」
安全距離は現在二十センチ。格段に進歩したとはいえ、異性に触れられると気を失う体質は完治していない。
「綾菜ちゃんの名前をだすと、すぐに隼人が釣れるんだよね。あっけなさすぎて、ネタばらししても惜しくないや」
明るく暴露する真坂。
久我の顔はすでに般若に変わっていた。
「えっと……、もしかして私のために、部活にでてくれていたんですか……?」
真坂に悪さをされないよう、参加して見張っていてくれていたということだろうか。
だから、綾菜が帰るまでは久我も帰れなくて苛々していたと。
「ほかに理由を思いつくなら言ってみろ」
綾菜は小首を傾げた。
久我はこの同好会の部員。活動に参加するのは当然なのではないだろうか。
真坂の肩を持つつもりはないが、いつもサボってばかりいるから、脅しなどの手段を使われたのだと思う。
久我を心配するルームメートとして、たまにはびしっと言ってあげてもいいかもしれない。
「久我さん、あのですね」
「なにかあるのか」
般若顔が目前に迫る。
無理。
この顔に口答えできるひとなどいない。
