「違うよ。私が提案したんだってば。怖いかなって心配したけど、すごく気持ちよかったの」

 綾菜の言葉は、理佳が正しく理解するには不足しすぎていた。

 綾菜は幽霊の幻が浮かんでくる怖さを心配した。もちろん男女の睦言への心配などしていない。

 すごく気持ちよかったとは、幻も浮かばず、心地よく眠れたという意味。男女の睦言への感想ではない。

「か、身体は大丈夫なのか?」

「ちょっと苦しかったけど大丈夫。久我さんは優しかったし」

 またしても不足。

 久我の肩に顔を埋めたので苦しかったが、優しく腕枕をしてもらったので大丈夫と綾菜は言ったつもりだった。

 超能力者でない理佳には、言葉になったものしか理解できない。

 今のは、男女が床を共にした経験への感想に違いない。

 そう思いこんだ理佳は深く後悔した。

 態度にはだせなかったが、実はすごく大事にしていたのに。

 毒牙にかかるのを防げなかったのは自分の注意不足だ。

「世間知らずのアンタを放っておいた私が悪かった。今度からちゃんと守るよ」

 男どもからこの子を守れるのは私しかいない。

 理佳は強くこぶしを握りしめた。

「理佳ちゃん、今日は優しいね。大好き」

 のんきな綾菜は、顔についた卵の黄身を名残惜しそうに指でぬぐって舐めとっていた。