「それは……苛酷だな」
さすがの久我も苦笑するしかないようだ。
「ですよね。シングルマザーが強くなるにはホラー映画くらい観なくちゃ、とか言い訳をしていましたけど、単に好きなだけです」
「シングルマザー、か」
久我が声のトーンを落とした。
また、同情されたのかもしれない。
「久我さん、他人の家庭環境にいちいち同情していると、こころが持ちませんよ。世界に人間が何十億人いるかご存知ですか?」
「オマエは他人じゃない」
髪を何度も撫でられると、言いきかせられているようで、ささくれた気持ちが穏やかになっていく。
「オマエの母親はどうしてシングルに?」
「久我さん、ホントに詮索好き」
注意したそばからこれだ。聞いたらすぐに同情するくせに。
「オマエにだけな」
甘い声がくすぐったくて、綾菜は身をよじる。
「母は理由を語らなかったので知りません。父がどれほど素敵かという話は、しつこいくらい聞かされましたが」
母が綾菜に残した父への感情は憧れだけ。
だから、父に会えたときもなにも聞きはしなかった。
