綾菜は訪れるだろう甘い衝撃を覚悟した。
「あ、れ? こない……」
いつもなら久我は、綾菜の髪や耳に唇を降らせたり、顔を執拗なまでに触れてきたりするはず。
それが、今は全く触れようとしない。体温を感じるほど近くにいるのに、どうしたのだろう。
「触らないんですね」
素直に口からでた疑問。
薄闇の中、久我から漏れたのは吐息。
「挑発するな。止められなくなったら困るのは俺じゃなくてオマエだろ」
久我の言葉は難解で、的確な返事がわからない。だから、正直な気持ちだけを口にする。
「ちょっと寂しいかも」
包みこまれるように抱きしめられる心地よさを知ってしまった。
いっぱいいっぱいになってしまうことも多いけれど、触れてもらえないと物足りなく思うのも事実。
「オマエ、絶対に嗜虐趣味があるぞ」
「私にひとを苛めて楽しむ嗜好はありません」
突然なにを言いだすのか。
残虐なことを好むこころなどあるはずがない。
「俺を煽るだけ煽って、結局は我慢を強いるのに?」
「私がですか? 身に覚えがありません」
即答すると、久我は深いため息をついた。
