「ふーん。じゃあ、行くか」

「えっ?」

「寮に行くんだろ? 俺も帰るとこ。ついでに送っていく」

 迷いのない足どりで距離が詰められていく。

 まずい、絶対にまずい。

 ほら、もう背中に変な汗をかいている。

「こ、来ないで!」

 綾菜は叫んだ。

 もう気絶するのはごめんだ。

「どうかしたのか?」

「と、とにかくそこを動かないで。……送ってもらわなくて大丈夫です。いろいろ、ありがとうございましたっ!」

 綾菜は背後のドアを思い切り開けて、駆けだした。

 ――逃げるが勝ち。

 覚えたばかりのことわざを何度も呪文のように唱えていた。