久我の人さし指が唇に触れる。
沈黙の合図だとわかっているが、指の腹で唇を押されると、すごく恥ずかしくて息が止まりそうになる。
「久我、さん」
「なに?」
「もう、黙りましたから離して……」
言うと、指がすっと離れた。
ほっとした瞬間、また感じる圧力。形を確かめるように、唇の輪郭にそって指が動かされる。
触れられたところだけ、熱量が増していく感覚。くらくらする。
「変になるから、やめてください」
「なっても俺は構わないけど?」
唇を辿る久我の指が、時折、歯にあたる。唾液がついてしまいそうで困惑する。
小さな子どもならともかく、指が口に入る行為を大人がするのはおかしい。
「……苛めないで」
漏れる吐息でこころが壊れてしまいそう。
綾菜は瞳に涙をにじませて懇願した。
