「その制服、雫学園だろ? 見たことない顔だな」
「えっ? あっ、はい。今度、高等部に入る予定なんです」
綾菜はようやく、男のブレザーについたエンブレムに気がついた。
モチーフは水滴。雫学園の徽章だ。
どうやら、同じ学校のひとだったらしい。
「中途枠があったのか。珍しいな」
雫学園は中学から大学までの全寮制一貫校。中途入学は滅多にない。
「母が学園出身だったので、許可してくれたみたいです」
この学園は、親が卒業生の場合は特に優先して子どもの入学を認めている。
伝統を代々受け継ぐという精神らしい。
「じゃあ、今から入寮なのか?」
「はい。荷物は先に送ってあるので、あとは私が行くだけなんです」
保護者が一緒でないことを訝しんだようだが、綾菜は深く説明はしなかった。
母親が他界しているとか、父とは籍が入っていないとか、ごくプライベートなことまで見知らぬひとに話す必要はない。
