アークは何かを掴んだように駆けていった。途中、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる、聞き覚えがある声だ。
「おうい、アーク」
 アークは止まり振り返る。そこには仲間と別れたとき、一緒にいたもう一人の同年代だろう青年が息を切らしながら走ってきた。
「何だよ、ルイ」
 ルイ――そう呼ばれた青年は怪訝そうな顔をして問いかけてきた。
「何か掴めたか?」
「"ごく最近、森の広場の銅像前で人々が祈りに行くんだけど、そこで人が帰ってこなくなるんだとよ。"だそうだ」
 アークの記憶能力は本物だ、故にどんな些細な事でもちょっとやそっとじゃ忘れもしない。
「そりゃ"悪夢"だな。奴は、人を殺して食い散らかすことで自分が進化する、そうなる前に壊さないと」
"悪夢"は生まれて五ヶ月ほどは動けない。そこがポイントだ。
"悪夢"は動けない期間は地中で過ごす。
 アークは帯剣型のネックレスを握り締めると彼らは互いに顔を合わせた。軽く頷く。
その刹那、彼らの体は光で包まれる。光の柱がなくなると彼らの姿はもうそこには無かった。

1626/9/24 17世紀前半
 風が吹く。それで木々が揺れ涼しそうな音を奏でる、一面緑の森。
木を背凭れにして膝を抱えるようにして座ってどこかをずっと見つめている青年――アーク・ディオン。
緑の地面にうつ伏せで寝転んで双眼鏡で遠くを眺めている青年――ルイ・ファルロス。
 この静寂しきった森のなかに二人の青年がいる。

  ギャアアァァァ!!!!!

 怪物の咆哮――そのような甲高い叫び声が聞こえてきた。野鳥達が一斉に飛び去っていく。
"悪夢"だ。"悪夢"は週に一回程度酸素を蓄えるために地表に出る。その際に発した奇声だろう。
 それまで、涼しかった森の静寂が破壊された。途端にまた静寂が舞い戻ってくる。