序章


 彼の名前は――放浪公爵。
 職業――無し。
 高技術の持ち主にして、世界復讐から滅亡を企む者。


2007/5/24 21世紀前半
 コツ..コツ..コツ.. と放浪公爵の足音。大きなシルクハットに裂けた口、大きな図体に黒い古ぼけたコートを着ている。
 コツ..コツ..コツ.. 公爵は大きな広間へと向かっている。
 コツ..コツ..コツ.. 公爵は広間の中央の丸い祭壇の上に立ち止まった。裂けた口をさらに横に引きつらせる。
不気味な微笑みを見せると祭壇の下の方から光が発生し、光の柱となった。不意に光が消えると、公爵の姿はもうそこにはなかった。

1627/6/20 17世紀前半
 空は、どす黒い雲に覆われて強い大粒の雨が降っている。太陽がどこかも分からない、雲から。
 廃屋と化した建物。ぼろぼろの破れた旗。泣きじゃくる子供。道端に落ちている人の屍。その原因はすべて、彼にあった。
 彼は、強い雨に打たれながら動こうとはせずただ凍ったように自分の斜め下の方を見つめている。
大きなシルクハットに裂けた口、大きな図体に黒い古ぼけたコートを身にまとっている男。
彼は『放浪公爵』。世界復讐から滅亡へと誘う者。公爵は不気味な顔で微笑むと、その瞬間公爵の足元から光が発生し公爵を包み込む。
その光の柱が消えると公爵の姿はもうそこにはなかった。