「白井!」

思わず叫ぶが、彼女には届かない。

急いでエスカレーターを駈け上る。

こんなに走ったのは何年ぶりだろう。


「白井!」

列へと向かう彼女を追い掛けながら、もう一度叫ぶ。

周りにいる人が何事かと振り替えるが、そんなことにはかまっていられない。



「…咲!」

立ち止まり、あらんかぎりの力で呼ぶと、彼女の凛とした姿が動きを止めた。

彼女はすぐには振り返らず、一拍おいてからゆっくりと俺を見た。

その一拍で彼女が深呼吸をしたのだと、なぜか俺には分かった。