確信はしていても、心のどこかで期待してしまう。
もしかしたら好きになってくれるかもしれない。
そんなことは絶対にないと自分に言い聞かせて一年生の塊に入る。
それなりに友だちもできて、満足な1日を過ごした。
明日もあの子は来るだろうか?
頭の中からあの子が消えない。
そこで初めて一目惚れしたことに気付く。
「おーい!」
後ろから声がかけられ、振り返るとそこには旭くんが手を振ってこっちに向かってきていた。
旭くんは「一緒に帰ろうぜ。」とだけ言うと自転車から降りて隣りに並んだ。
「もう決めただろ?」
旭くんは当然のことのようにたずねる。
「うん。」
首を縦に小さく振ってこたえると、旭くんはニッと笑った。
「一年のマネージャーにかわいい子いたなぁ。」
旭くんがそんなこと言うと思わなかった。
旭くんじゃあ歯が立たないどころか近付けもしないや。
心でつぶやきながら曇ってきた空に気付いて帰り道を急ぐ。
旭くんは後ろから流れるように走る自転車の波に「じゃあな」とか「お疲れ」とか言いながら手を振っていた。
「大輔さぁ、なんでバレーなんだ?」
旭くんは、そういえば、というような顔で自転車たちの後ろ姿を見たまま聞いた。
そんなこと、考えたこともない。
だって旭くんの後ろをずっとついてきたから。
旭くんみたいにかっこよくなりたくて、後ろ姿をずっと見てきたから。
「楽しいから。」
どこにでも落ちているような言葉を選んでこたえる。
「だよな。」と言って、旭くんはニッと笑う。
自分はその笑顔をやっぱり好きになれなかった。
曇り空はますます暗くなる。
分厚くなる雲が、大輔と旭の帰りを急がせていた。