桜はもう散り始めていた。
地面を淡いピンク色に染めた花のかけらたちは、風に吹かれて踊っているかのように見える。
入学式も終わり、授業も明日から始まる。
この学校では、一年は必ず部活に入らなければならなかった。
入学する前から部活は決めていたが、一応見学してみようと思う。
体験入部と名の付いた部活動見学の期間はわずか一週間。
自分の目には、さまざまな部活動の先輩が部活動紹介で輝いて見えた。
その中でも入ろうと決めていた部活の先輩はルックスでさえもかっこよく、自分が入っていいものか戸惑った。
多少の戸惑いはあったものの、決心は固く、自分は今、体育館の重い扉の前にいる。
手をかけて、開けようとすると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「お、大輔じゃないか。」
振り返ると、小さい頃から一緒に育ってきた2つ上の『旭くん』がボールを片手に、練習着で立っていた。
一緒に育ってきてもルックスでは全く歯が立たない。
2年違うと、こうも違って見えるものか。
自分を見つめる旭くんの笑顔が少しうらやましく、そして少し疎ましく見えた。
「なんだ、体験入部か?」
旭くんはニッと笑ってたずねる。
自分は首を縦に振ると、旭くんは「そうか。」と言って重い扉を片手で開けてくれた。
一緒に中に入ると、先に体験入部に来ている一年生が、10人程ボールに触れて基礎練習を始めていた。
旭くんも「すげーなー。」と言ってその一年生の隣の塊を見つめる。
それはマネージャー希望の一年生だった。
このマネージャー希望人数が10人を超えていることに旭くんは驚いたのだ。
「大輔、あそこに行きな。」
旭くんは練習している一年生の塊を指差して、先輩たちがウォーミングアップしている輪の中に入って行った。
あのルックスで部活動紹介したら、仕方ないのかもしれない。
そんなことを考えながら、一年生の塊に向かったが、一人の一年マネージャーに目が止まる。
ごく普通の体系だが、髪は肩につくぐらいで、一重のわりには大きな目を持つ女の子だった。
自分で自分がバカらしくなる。
あんな子が自分に振り向いてくれるわけない。
なぜかそう確信した。