「綾乃さん」

翔の声が聞こえる。

重症だ。

受験勉強と、恋に気付いた途端に失恋したせいで、翔の声が聞こえるような気がするなんて……

「綾乃さん、開けてくれなきゃ、ぶち壊すよ」

気のせいじゃない!

私は慌てて、窓を開けた。

「ようやく、開けてくれた」

「翔!」

「ひどいよ。待っててって言ったのに」

翔は帽子を取ると零れそうな笑顔で微笑んだ。

「どうして、ここに……?」

「まだ、返事もらってない」

「返事って?」

「コンサート会場で言った時の返事」

私は首を傾げる。

「もしかして、聞こえてなかった?」

私はコクンと首を縦に振る。


途端に、翔は「えーーー。まじで」と唸ったかと思うと、その場にしゃがみ込む。

「なんて言ったの?」

私は窓の格子を両手で掴むと、座り込む翔を覗き込んだ。

「もう言えない」

翔は拗ねたように帽子を目深に被ったまま、顔を上げてくれない。

「あれから、綾乃さん、会ってもくれないし、振られんの覚悟で来たのに……。まさか、聞いてないって返事は想定外」



振られる?

振られるって何のこと?


首を傾げる私に翔は苦笑いしながら言った。

「良かったら、出て来て。このまま、窓越しで話しているとまるでロミオとジュリエットみたいでなんか不吉だ」