ステージの袖で、アンコールに応える翔たちの歌やダンスを見届けていた。

その時、私の隣に栄さんが腰を降ろす。

「栄さん……」

「聞いて。今は昔と違ってアイドル達が交際宣言することは珍しくなくなったわ。
でもね……彼女たちを見てご覧なさい」

栄さんが会場の女の子達を指差す。

「彼女達は真剣に翔に恋しているの」

翔に……

恋している?

栄さんは私の方に向き直り、私を真っ直ぐに見つめた。

「その翔が特定の女の子と、しかも、なんの話題性も無いごく普通の女の子とお付き合い、何てことになったら、彼の人気はガタ落ちだわ。そうなれば……」

「ちょ、ちょっと待って下さい。勘違いです!私、翔とは付き合ってません!」

栄さんが驚きに目を丸くする。

答えながら、自分自身が納得する。

そうなんだ。

私が翔と一緒にいるのは、ただ単に私が翔に勉強を教えてるから……

それだけなんだ。



……本当にそれだけ?


頭を押さえ、考えている間にも、栄さんがにっこりとほほ笑む。

「そう。だったら、なおのこと、今後一切彼に近づかないで欲しいの。簡単なことでしょう?」

舞台に立つ翔の輝く笑顔が見える。

ファンに手を振って、そして微笑み、ファンの子たちが泣きながら翔に手を振ってる……。


私とは違う世界に住む人。

あまりにも違い過ぎる世界の人。


私はコートを手にすると、裏口に向かった。

「分かってもらえて嬉しいわ。車を手配するから良かったら使ってちょうだい」

「いえ。電車で帰りますから」


私は首を振ると、コンサート会場を後にした。