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私の住んでいる隣の部屋は「撮影部屋」だ。

マンションのオーナーが撮影専用に用意した部屋で、月1回、多い時は5回くらいは撮影がある。

サスペンスモノの撮影から映画の撮影まで、数々の撮影が行われていて、それはそれは有名な俳優さんや女優さんがやってくる。

今回、仮題で『未必の故意』と言う撮影があると言うお知らせがあったのは1週間前。

……すっかり忘れてた。

しかも、撮影の邪魔しちゃったなんて。

頭を抱えながら勉強している私の部屋の前から、「アクション!」と言う聞きなれた言葉が聞こえてくる。

私が勉強している部屋の前はマンションの外廊下になっていて、時々、撮影に来る人たちの怒声やら笑い声が聞こえる。

「今日は寒いっすね。お互い、風邪引かないようにしましょう」

今、翔の声が聞こえた。

どうやら、外で出待ちしているみたいだ。

私は勉強を中断し、家を飛び出した。

凍りつきそうな寒い外廊下で、翔はスタジアムジャンパーを着て、コーヒーを飲みながら、コールマンの椅子に腰かけていた。

微かな灯りの下で、翔は何かを書いていた。

私は恐る恐る近寄ると、差し入れのクッキーを彼に差し出し、「今日はすみませんでした」と頭を下げた。

普段はこんな風に撮影の人に声を掛けることは禁止だし、勿論、私もしないんだけど、さすがに今日の号泣はまずかったと反省し、せめてクッキーだけでもと思い、勇気を出して差し出した。

翔が私を見上げる。

長く伸びた足。

茶色に染まった髪も無造作に見えつつも、品良く整えられてて、長い睫毛の下からは、茶色がかった澄んだ瞳が覗いていた。

やっぱり、カッコいいや。

私はフアンじゃないけど、クラスの子達が騒ぐだけある。

彼の体全体から発せられるオーラが眩しくて、思わず、手を翳しそうになる。

「ああ……。さっきの女の子か。迫真の名演技だったよ。ま、あんたもお袋さんが無事で良かったな」

「す、すみません。うち……去年、父を亡くしたばっかりだったんで、母までいなくなったらって思うと、つい……」

「親父さん、亡くなったの?」

翔の声に、我に返る。
あ。
いけない。
余計なこと、喋ってしまった……。