今まで翔の経歴は謎に包まれていた。

そんな彼のクールな口調と美貌がファンを虜にして来た。

その彼の変化にファンがざわつく。

「……もし、帰れる場所があるなら……
 ……もし温かく迎えてくれる場所があるなら……
 ごめん。なんか、上手く言えないや」

翔のクールな仮面が剥がれ、18歳のはにかんだ少年の顔が覗く。

「だから歌います」

翔は古びた1本のギターを取り出し、ギターピックにキスをする。

そして、マイクに向かって、歌の題を呟く。

「Home, Sweet Home」

周りから歓声が上がり、翔の静かなギターの調べから曲が始まる。

歌が始まると、会場は水を打ったように静まり返る。

翔の日本人離れしたハイトーンの声が、マイクを通すと一層透明感を増し、ゾクリと鳥肌が立つ。

翔は歌を通してメッセージを伝える。

自分の生い立ち。

歌。

仲間。

そして、恋。

様々な出会い。

様々な旅。

だけど、帰りたい場所は『Sweet Home』

翔が歌い終えた時、それまで沈黙を通して来た会場が爆発する。

全てのファンが総立ちで翔の歌を、稀有な才能を称賛する。

懐かしい歌。

魂に響く歌。

そんな歌を歌える人……

いつしか私も立ち上がり、彼に拍手を送っていた。




その時、背後から30代くらいの女性に肩を掴まれる。

「笑喜綾乃さん、ですね?私、翔のマネージャーの栄(さかえ)と申します。ちょっと、一緒に来て頂けるかしら?」