「えー、本日は天候も良く、桜が…」
校長が長い話を舞台の上で披露していた。
沙耶が杏の背中をつつく。
「あれだよ、あの人。」
沙耶の指の先には朝出会ったりんごの人がいた。
『あー…。』
沙耶に「朝会ったよ。」と言おうとして、杏は振り返ろうとした。
が、体が動かない。
杏の目はあの時のようにりんごではなく運動部に入っている生徒のようにこげた頬を見つめていた。
そして、離れなかった。
「杏?」
沙耶が静かに肩をつつく。
「うん、沙耶が好きそうな人だね。」
杏は適当に返事をしてため息をついた。
「顔はいいけど童顔だよね。あたし大人な人がいいなー。」
沙耶の独り言が後ろから聞こえて校長の話と重なった。
「では、新しい先生を紹介します。」
校長の声でざわめき始める体育館。
それは女の子の声が大半を占めていた。
「数学を担当します、大滝旭です。」
こげぱんのような頬がそう動いた時、女の子のざわめきはより大きなものに変わっていた。
体育館の端にいた杏は、そのざわめきで声が聞こえない状況にいた。
「ごめん、ちょっと出る。」
杏は、ざわめきの中、頭痛で体育館の外に出た。