教室の片隅で携帯をもてあそんでいると、教室の密度が少しずつ高くなる。
『あの人のせいでりんごジュースゆっくり飲めなかったし…。』
暇な時間ができてしまった。
空いた時間に何かしようかと鞄をあさるが、特に暇を潰せるような便利なものは入っていなかった。
仕方ないので窓からぼーっと桜を眺めていると、教室の扉が勢いよく開いて、聞き慣れた声が教室に響いた。
「杏ー！おはよー！！」
声の主は元気よく入ってくるといきなり杏に抱きついた。
「おはよう、沙耶。」
抱きつかれたままあいさつをする。
沙耶は体を離すと目を輝かせて言った。
「杏とクラス同じで良かったー！また一年宜しくね。」
幼い顔がニコッと笑った拍子により幼く見えた。
杏は頷いて、微笑む。
「っていうか聞いて！さっき教頭に会ったんだけど、一緒にいた男の人！めちゃイケメンだった！」
沙耶はそう報告すると、うんうんと自分にも言い聞かせるように、独り言をつぶやいて頷いた。
沙耶は杏の肩をつかむと、一生のお願いと言って手を合わせた。
「式が終わったら、あのイケメンくん見に行こ！」
いいと言うまで絶対離さないと言う顔で沙耶は杏を見た。
「うん、いいよ。」
沙耶の新任調査は毎年のことだったが、今年はなんだか気合いが入っている。
『後でりんごジュースもう一本買おっと。』
そんなことを考えながら杏と沙耶は体育館へ向かった。