「及川さん、及川遥さん」

聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。
さんを付けるなフルネームで呼ぶなと何度言ったら分かるのだろうか。

「なに千春」
「笑え」

振り返って用件を聞いてやったら仏頂面を見るなり即答された。
何度言われようが私は笑わないと言っているのに。

「それは無理なご相談ですね」
「お前ならできるさ…!」
「お巡りさん助けてキモイ人がいる」

キモイだなんて酷いわ私は貴方の為を思って言ってるのよ!と大袈裟に千春が嘆く。
確かに千春の言っていることは正しいと思うし、私だってそうしなければならないんだろうなあとは思っている。

しかし、やはり私はどうしても笑いたくないのだ。それはもう、どうしようもないくらいに。