私は昇降口まで全速力で走った。
走るたびにピョンピョン跳ねる、後ろで一本に結んだ長い髪を邪魔くさいと思いながら、とにかく走った。
江坂奏には悪いけど、厄介事や面倒くさいことに巻き込まれるのはごめんだ。
それに……
なんとなく、関わりたくない。
昇降口に辿り着くと、肩で大きくその場の湿っぽい空気を吸う。
さすがに三階の二年生の教室から一気に走ってくるのは、初夏とはいえ、キツい。
「お、亜莉子ー!!もう終わったの?」
「あ……うん!」
私に気付いた奈美(ナミ)が手をブンブン振りながら近づいてくる。
多分汗だくであろう私を見て、奈美は訝しげに眉をひそめた。
「どうしたの?走って来たの?」
「ま…まぁ、ちょっと自分の足の速さの限界に挑戦してみようかなって」
「あんたのことだから、また話の途中で逃げ出して来たんでしょ」
「…ごもっとも。
だけど、」
「んで?どうだった?ちゃんと話した?どんな内容だったの?」
私の意見を華麗に無視した奈美は、質問責めをする。


