「お兄ちゃん、頭大丈夫?」
すっかり自分の世界に入っていた私は、男の子の存在を忘れていた。
奇声を発したり、奇妙な行動をしたり、男の子の目には相当な変人に映っているだろう。
「うん、平気だよ」
少し落ち着いた私は、冷静に答えた。
ほんの少し感動した。
逃げずに、頭の心配までしてくれるなんて。
なんていい子なんだ。
「よかった。おれ、変質者に声掛けちゃったと思って焦った!」
そっちの心配かよ!今の心暖まった感動を返して!
今日は何かと疲れる日らしい。
やっぱり、一刻も早くお家に帰ろう。
「ねぇ君、もうお姉ちゃん帰るね」
「……お姉ちゃん?」
Noォォ!
今私お兄ちゃんだ!
男の子は凄く不審そうな表情をしている。
きっと頭の中では逃げるべきか否か迷っているのだろう。
警察のご厄介だけは勘弁したい。
ここはまず誤解を解かないと。
「お兄ちゃんね、実はお姉ちゃんなんだけど」
「えっ、オカマなの?」
この子、絶対意味を理解していない。
第一オカマという言葉は、男が女の恰好をしたりする人のことで、私のこの状態は違うわけで……。
まあ、私もよく理解してないけど、とにかく男の子の解釈は間違っている。
うん、説明するのが面倒くさい。
そういうことにしておこう。
少年に間違った知識を植え付けてしまうことに罪悪感を覚えながらも、私は頷いた。
「ほんと?おれ初めて見たっ。うお、すげーっ」
なんだこのテンション。


