そんな不安をよそにお姉様も引き留めようとする。


「そうよ。それに、亜莉子ちゃんのために1日限定10個しか売らないすんごいレアなプリン手に入れたんだから」

それはまさか!言葉で言い表せないほど美味しいと言われる、幻のプリンじゃ…。

ちなみに人生で一度は食べておきたい食べ物ランキングでいつも上位に入るほどの絶品らしい。


どうしよう、もの凄く食べたい。

あらぬ誘惑が私を誘う。


しかし心の何処かでこれは罠だ、と止める自分がいる。


そうだ、たかがプリン。

たかが……。


「……食べてみたい」


ポロリと本音をこぼした私に江坂奏は更に追い討ちをかける。

「それに、さっき俺が買った雑誌、全部揃ってるんだ。今は絶版になってる推理小説も沢山あるし、なんなら借りてってもいいよ」

この言葉が私の心を貫いた。


小説借りちゃってもいいの?

うんいいよ!


「じゃあ、話聞くだけなら。プリン頂いちゃおうかな」


「やった!とりあえず紅茶淹れてくるわね」

お姉様はスリッパをパタパタさせながら、部屋の奥の方に消えていった。


ああ!なんて現金なの。
ほんとチョロい、チョロすぎるぞ私。
ものに釣られるとか小学生かよ!

深いため息と共に自己嫌悪が襲う。


でも、絶版した小説はなかなか読むチャンスがない。

だから読むことができるなら読みたい。

それに、話を聞くだけ。
とりあえず聞くだけだ。

そう自分に言い聞かせると、私はソファに座り直した。

「さっそくだけど、どんなバイトなのか聞かせてよ」


いつの間にか私の向かい側にあるソファに腰を掛けていた江坂奏は、軽く脚を組みながら何か考え事をしている風だった。

返事はなく目をしっかりと閉じている。

まさか寝てる?


「江坂奏?」


あまりにも反応がないので不思議に思って声をかけると、意外にも普段となんら変わらない調子で返答が返ってきた。


「大丈夫。ちゃんと聞いてるよ」


「考え事?」


そう問うと、江坂奏は目を細めて軽く笑った。