一つだけ、どうしても我慢ならないことがあった。
「手、離して。つーか離せ」
そう。
今まで耐えたけど、そろそろ限界だ。
私の場合は蕁麻疹などが出るタイプではないが、鳥肌が立ちさっきからずっと寒気がする。
江坂奏は乱暴になった私の言葉を聞いて、表情を変えることなく「ああ」と呟いた。
そしてなにやら片手で、背負っていたリュックの中をごそごそと漁る。
そこから取り出した物は、普通なら決して生で目にすることが出来ないものだった。
「……これ、手錠ですね」
「そうだけど」
「何に使うのか教えていただけたりします?」
「多分、姫野さんの想像通りの使い方だと思うよ」
――ガチャリ。
さっきまで温かさを感じていた手首にひんやりとした物が加わった。
慌てて下を向くと、そこには光輝く金属製の物体がいつの間にか存在していた。
「これで問題無いでしょ。さ、行こ」
そう言って私の了承を得ることもなく、歩き出す江坂奏。
そっか。
これで手を繋がなくとも逃げられる心配はないし、鳥肌は立たないし一石二鳥!
問題ナッシングね!
って、いやいや待て。
問題大有りだからね。
恥ずかしいし、それに何故か罪悪感がわいてくる。
抗議をしようと口を開くが、視線に耐えきれず。
あちこちから痛い視線を感じる。


