「さっむい。」

夕方辺りから冷え込みだした風がむき出しの耳をチクチクと刺す。

自転車のカゴに乗せてあるビールが、飲み頃をキープしている事は、有難いのだけど。

次の角を曲がれば、彼女の家だ。

『誕生日が1月って損。』

膨れ面の彼女を思い出す。

『子供の頃から、お年玉もクリスマスもごまかされてたんだよ。』

ゴメンな、俺まだ貧乏だから。

コンビニ袋のビールと同居しているヌイグルミを確かめる。

包装紙から顔だけ出しているのは、黒猫。

これでも結構頑張ったんだぜ。

特に尻尾に付いている飾りは、君の指にぴったりのはずだよ。

少し臭いかな?



彼女のアパートが見える。

吐く息が白く、リズミカルに弾む。

自転車置き場から玄関ホールに小走り。

ホールのインターホンに彼女の部屋番号を入力する。

細長く流れるチャイムから遅れる事十数秒。

『雪が降りそうだね。』

そう来るか。

突拍子も無い所が、らしくて少し笑える。

「誕生日前夜祭めでとう。」

俺の呪文で、オートロックの自動ドアが開いた。