ピンと張ったピアノ線の様な空気がその部屋に流れていた。

触れれば切れる様な。

固く引き絞られた空気が。

「おい、居るんだろ?」

筋肉でパンパンに膨らんだ黒スーツを着た男が半開きのドアから呼び掛ける。

事務所として使われていた二十畳程の広さの部屋には、主を失った事務机が雑然と放置されている。

『あの余裕、仲間は三人以上、確定だな。』

机の下で、息を潜めていた青年は心の中で舌打ちする。

時ドアが開く気配がする。

1、2、3、4

『四人プラス扉の外に一人。』

LEDの青白い光りが部屋を駆け巡る。

黒スーツの一人が二つ隣の机を探り始める。

『くっそ。』

青年は、足元に有った手持ち金庫を黒男の脛に向かい叩きつける。

「うあ。」

悲鳴を上げる男の頚椎に手刀を叩き込む。

その間に、一人がこちらに拳銃を構え、残り二人人が机を飛び越え駆け寄る。

青年は体を低く構え坊主頭の黒服に向かい思い切り机を蹴飛ばす。

その勢いで横飛びに伏せる。

チュンと男がして、それまで青年がいた空間が何かが横切る。

『撃って来やがった。』

考えながら、先程倒した男の所まで滑り込む。

脇に手を突っ込み拳銃を引き抜く。

『ビンゴ!』

そのまま、青年に突進してきていた男の額に向け引き金を絞る。

ゆっくり膝を付く男ごしに、扉の前に向けて一発。

その時、唐突に部屋の灯りが点く。

「おい二階堂、犯人役が一人でSP全員倒してどうする。」

青年が頭を掻きながら立ち上がる。

「つい、気合い入っちゃって。」

灯りを付けた男が部屋の黒服達を一喝する。

「訓練じゃ無かったらおまえら、全員死んでるぞ。」

その夜、二階堂は、仲間に酒を奢らされた。