「明日、雨がふる。」

灯籠の灯りに照らされた木造の部屋に凛とした声が響く。

やや低めの声は一段高い座に座る少女から発せられた。

麻のボロ服を着て、立て膝を付き、髪をボサボサとのばした少女は、しかし不思議と神々しい空気を身に纏っていた。

「有り難うございます言様。」

樫の板になめした鹿皮を張り付けた鎧を身に纏った大男がひれ伏している。

「退け。」

少女の一言に男は顔を伏せたまま後退り部屋を出る。

「あいつ次の戦で死ぬるな。」

かかかと笑う少女を、脇で控えた長い髪の美しい青年が諫める。

「余計な言葉は発せられるな、言様の言葉は現を寄せます。」

感情が微塵も感じられない冷たい声だ。

面が美しいだけに、妙な威圧感がある。

「指図するな!ワラワは、神じゃぞ!」

山が爆ぜる様な少女の一喝にも青年は動じない。

「言様は人です。」

少女は、歯噛みする。

先ほどまで目を閉じていた青年が、薄く瞼を開ける。

そこには瞳は無く、代わりに緑色の石がはめられていた。

「言様の言葉と現が『寄る』だけの話しです。」

「なあ翡翠、何故お前には、言葉が通じぬ。」

虚ろな表情の少女が青年に問う。

「言様の言葉を魅る事が出来ないからです。」

幾度も繰り返した問答だ。

「翡翠、お前はワラワを好きになる。」

「嫌いでは有りませぬ。」

青年の起伏の無い言葉に少女は眉を寄せる。

「不便なもんじゃ。」