中3だった俺はいわば学園の王子様的存在だった。

いつもげた箱にはラブレターが大量。
追っかけが常にまとわりつく日々。
毎日呼び出されては告られる。


何度
「スキな人、いないから。だから付き合う気もない」
ってきっぱり断っても、一向に減る気配もない。

さすがに精神的にもまいり始めた頃、
俺はある女に出会った。

名前は、“百合子”。


たいして可愛くもなく、地味で目立たない子だった。


でも、みんなが俺と目があった度に頬を赤く染めるのに対し、
あいつは俺に平然と接した。

その頃俺は周りの女がうっとうしく、どうにかしてけちらしたかった。



だからその時ふと思いついたんだ。


“特定の誰かと付き合えばいいんじゃないか”と。


そう考えついて、俺がその相手としてふと浮かんだのは“百合子”だった。


なぜ、“百合子”なのか。
もちろん俺は“百合子”のの事がスキではなかったが、
それと同時に百合子も俺の事がスキではなかった。


だから…だから、カモフラージュとして付き合うには、もってこいだと思った。




付き合って、百合子はカモフラージュとしての十分な役目を発揮してくれた。

初めは
「つり合ってねえよ!」
と罵倒されることもあったが、
一緒に仲良く帰る姿を見せつけてやると、さすがに怯んだようだ。


そして…。

たしかに初め、俺にとって百合子はカモフラージュとしての価値しかなかった。


でも、日が経つにつれて…百合子と付き合い始め、俺は恋に落ちていた。

初めての、今になっても、大切な忘れられない恋だった。


4度目のデートのとき、百合子とキス、をした。
百合子の唇は柔らかくて、温くて、そして恋の味がした。



俺が百合子に恋したように、
百合子も俺に恋してた………と思う。


こんな幸せな日々が、ずっと続くだろう、って
俺は疑いもしなかった。