白衣の裾が血で汚れる事も構わず、仰向けに転がる死体の側にしゃがみ込んだ彼は、璃々子の声も無視して、ギリギリの位置まで顔を近づけては、あちこち移動しながらつぶさに観察しだす。

「ちょっとぉ、博士、止めて下さいよぅ。その白衣洗うの私ですよ、血は落ちないんですよぅ」

妙に間延びした、甘えるような口調が癖なのか、必死さはまるで伝わらなかったが呆れているのは声色で分かった。

無言を貫く男に、痺れを切らした少女はカバンから出した物を突き付ける。

「博士ぇ、いい加減にして下さい、警察呼びますよー」
「あともう少し! 生の死体を見るなんて、滅多にない機会なんだ、だから」
「もう! 私が来る前に見てたじゃないですかぁ、警察に怪しまれちゃいますよ、何してたのかって」
「……観察」
「普通の人は、そんな事しません! ってことで、一般人な璃々子ちゃんは通報しまーす!」
「おい止めろ! じゃあせめて写真を、写真を撮らせてくれ――その携帯でいいからっ」

110番をダイヤルし、呼び出し音が響く携帯を少女から強引に取り上げて、男は死体に向き直る。