「あら、アスカちゃん」

美那さんは僕を見て微笑む。

僕もそれにつられて微笑む。

「今日も来たの?」

と、どこか嬉しそうな美那さん。

僕はにこっと笑い、

「はい、今日も来ちゃいました」

と言った。

僕には両親がいない。

3ヶ月ほど前に、刺し殺された。

‥‥母の旧友に。

その‥‥女が母に金を貸せと言い出したという。

そう親しくもなかったので、母は断った。

‥‥それで終われば良かったのに。

その女は逆恨みで、我が家に押しかけてきた。

僕は、此所にいて助かったけど‥‥。

父さんと母さんは、死んだ。

家に帰ったら、もう死んでいた。

僕は生きていて良かったと‥‥

みんなが言った。

同情なんて要らないけど、と思った。

別に勝手に言ってればいいんだけど。

害のある言葉でもないし。

祖父母はとうに亡くなっていた。

だから僕は、家族で住んでいた、父方の祖父母の

残した家に一人で住んでいる。

美那さんは弟と一緒に、うちの隣に住んでいる。

うちが引っ越してきた日。

それが美那さんとの出会いだった。

でも‥‥

まだ、美那さんの弟とは、会ったことがない。

少し気になるけれど、まあいいや。

「何飲むー?」

と、にこにこしながら訊く美那さん。

カウンターに肘をついている。

僕はカウンター席に座って、

「じゃ、ホットココア頂戴」

と言った。