青空と銃声


「いや、だって。……もう治ったし」

「治るはずないでしょ。崖から落ちたの数時間前ですよ」

まるで子どもの言い訳のような事を口にする男に、ぴしゃりとロビンは言い放った。
ひょっとして、頭でも強く打って記憶が混乱しているのだろうか。

「嘘じゃねえよ。治ったって!! 見てみろよ傷、無ぇだろ?」

むきになって口を尖らせる男は、前髪をぐいとかき上げた。
そこに巻いてあったはずの包帯も、当然の如くはずされている事に呆れながらも、渋々ロビンは彼の額に視線を落とす。



そして、絶句した。



不思議な灰色の髪を除けて見えた白い額には、傷などどこにも無かった。
いや、薄っすらと古傷のようなものが額の中央からこめかみに掛けて走っているが、まさか、それが。


目を見開いて何も言えなくなっているロビンを、面白そうに見る男。

「ほら、治ってるだろ?」

悪戯が成功した子どもみたいに笑う彼の瞳は、よく見ると、これまた奇妙な琥珀色をしていた。

「何で……」

すっかり混乱したロビンの目の前で、男は次々と、数時間前までは開いていた傷口を見せる。
そのどれもが塞がっていて、治ったか、治りかけていた。打ち身の部分の腫れも引いている。

「ま、流石に骨はくっ付いてないと思うけど、杖ついてなら歩けるだろうし」

男はロビンの疑問を無視して、そのまま着々と身支度を整えていった。

やがて、ロビンは重症患者が数時間でベッドから立ち上がる、という奇跡を見た。