――ガチャ

「どちら様ですか?」

「あの、私、神谷真優と申します。高野和哉さんのお宅でしょうか?」

「あ、兄さんにご用ですか。ちょっとお待ちください。兄さーん、お客様ですよー!」

「俺に客?飯食ってんのにだれだよ。…おまえさっきの。」

「あの、先ほどは失礼しました。それでこれを…。」

「俺の財布!!」

差し出されたのは俺の財布だった。

「えっと、ぶつかった時に財布を落としてしまっていた様なので失礼ながら中身に入っていた学生証を頼りにご自宅までお邪魔させていただきました。あの時は本当にすいませんでした!」

俺の目の前で深々と頭を下げる女。

こんなにおどおどした女初めて見た。

てかわざわざ俺の家まで来たのか?

よく見ると女は汗だくで息が上がっていた。

「いや、あの時は俺も急いでたからな。俺も悪かった。それよりおまえわざわざ届けにきたのか?」

「あ、はい。財布がないと色々と不便かと思いまして。」

「もしかして走ってきたのか?」

「え!?なぜ分かったのですか?」

「おまえ…バカか?」

「兄さん!!わざわざ来て下さったのになんてこと言うんですか!!神谷さん、よかったらうちに上がってください。お茶でよかったら出しますよ。」

「いえいえ!見ず知らずの方の家に上がるなんて図々しいにもほどがあります!では、私はこれ、でぇ…」

――バタッ

「おい危ねぇ!!」

女は走り出したかと思うと急に倒れた。

俺はそれを持ち前の瞬発力で抱きかかえた。

「!?…おい正樹。今日はこいつうちに泊めるぞ。すげぇ熱だ。」

「え!?じゃあ僕お布団ひくので家に運んでください。」

正樹には熱だとしか言わなかったが、こいつは軽すぎだ。

一応俺も大学で医学を学んでいるから分かる。

こいつは何日も食べていない感じだ。

なのにこの家まで走ってきて体力も限界だったのだろう。

本っっっ当にバカな女だ。