先生とひよ子


先生は少ししてから
背筋を伸ばしてまた眼鏡を触った。


『色々さ…あっただろ?』


言葉を探すように
ゆっくり話し出す先生。


『地震とか。』


先生と目が合うと
私は小さく頷いた。


『ことみ氏に返すか迷ったんだけどな?』


先生は少し息を吐いた。


『人生…なにがあるか分かんないから。やれる事はやらなきゃって…後悔しちゃ駄目だなって思ったんだ。』


『…………』


先生…

それって……


先生は迷いながら
さらに続けた。




『俺はことみ氏には返したかったから。』