あたしの彼氏歴五年を誇る幸男くんは、名前とは裏腹にとても不幸な男の子です。
つい二日前、交通事故で死んでしまいまいました。しかも緑の軽自動車に轢かれたらしいです。彼は緑色が好きだったのに。皮肉なことです。
完全なわき見運転だったとか。なんの非も無いのに死ななきゃならないなんて不幸以外のなにものでもありません。

こんなに若いのに、こんなにご両親が泣いているのに、あたしという彼女がいるのに、幸男くんは布団の上でとても静かです。

思えば中学生からのつきあいです。
笑わないあたしを笑わせるのが彼の仕事で笑わないあたしは笑うのが仕事で。中学生の頃からあたしたちはもう就職していて、その仕事が互いに大好きだったのです。

つい三日前。付き合って五年目にして初めてキスをしたばかりなのに。

白い布団に横たわる幸男くんの唇は轢かれた時にぶつけたのか右側が黒々と腫れていて、舐めると少し苦く感じました。

幸男くんは不幸です。
あたしたちはプラトニックでした。



エンド。