「不毛だ」

笹川が言った。それを口にすること自体が不毛な行為なのだとこいつは一生理解せぬまま死んでゆくのだ。ご愁傷サマお疲れ様サマ。
とか笑って許してやれただろう。こんな状況じゃなければ。

名誉のために言っておくが俺はちょっとそこらにはいないイイ男である。自分でいっちゃうくらいイイ男である。十人中九人くらいは同意するであろうほどイイ男である。あ、俺って謙虚。

そんなイイ男が何を血迷ったのか素っ裸で寝転んでいるのだ、幼馴染みの女の部屋で。
そこで某かの行為が行われるのなら、いくらでも血迷おうじゃないかという話なのだが、幼馴染みの女笹川はベッドの前で呆然と立ち尽くし、沈黙。沈黙。沈黙。さらに沈黙を経て冒頭に繋る。


「悪い、けいすけ。しまってくれ」

笹川は俺の美しいハダカから顔をそむけ、口を押さえる。

「すまん。やはり私はレズビアンだ」

笹川が女でありながら女にしか欲情しないことを俺は知っていた。幼馴染みの俺にですら触られると鳥肌を立てるのだ。

俺が男だという理由で、そういった狭い了見でしか人を見ることができないのだこいつは。性差別である。あんまりにあんまりであんまりなあんまりだ。

でも仕方ない。

俺の裸が見たい、男とできるか試してみたい、セックスしてくれないか、と直接的な単語を使って誘って来たのが笹川のほうであっても。

男を拒絶する細い身体に触ることすら叶わないのだ。殴れるわけもない。

大事な女なのだ。
情愛を親愛に情愛を親愛に情愛を親愛に。


こうも魂が自由にならないのなら笹川が女しか愛せないのも俺が笹川に恋しているのも仕様のないことじゃないか。





失恋。
それでも女になりたいとは思わない、とイイ男な俺は強がってみる。







エンド。