私は人を殺した。


相手は知り合いでもないし、計画性があったわけでもない。


つまり、理由なんかなかったのだ。

いや、あったのかも知れない。

しかし人を殺してしまえば、理由なんかは関係なくなる。

それは人を殺して見ればわかる。





ある夜、私は一人でファミリーレストランに入った。


その夜は私がやっていたバンドのライヴの帰りだった。

しかも俗に言うヴィジュアル系と呼ばれるバンドだ。

もともとは普通の爽やかなバンドだったのだが、何故かこうなってしまっていた。

もう30近い私も、ライヴばかりは髪を染め、柄にもない「若者風」になる。
いや、「若者風」を飛び越しているだろう。

ヴィジュアル系バンドと言えば、想像するのは容易い。


まぁともかく、あの夜、私は金髪に些細なメイクに大きな楽器ケースをぶら下げた状態だった。


しかし、そんな事は対して関係ない。


10分か20分か待ち、私は二人用の喫煙席に案内された。

隣りの4人用の席には女子大生と思われる二人組が座っていた。


私にはどうでも良い事だったが、二人組にはそうでもなかったらしい。

髪の黒い方にしげしげと眺められた。

私はそれに不快感を覚えつつも、うやうやしく水を運んでくる店員に軽く会釈し、メニューを広げ始めた。


メニューを選ぶ労力すらおしい。

私は店員が行ってしまう前に、一番最初のページに一番大きく掲載されているハンバーグを注文した。

あぁしかし、私は肉が嫌いだった。

しかし今はそれ以上にメニューなどに目を配る労力がおしい。

疲れ果てたカラダはとにかく何かを欲していた。

隣りの席の二人組は下世話な話をしていた。

自分の恋人の愚痴を黒髪が早口で口汚なくまくしたて、金髪の女がそれを聞く。

たまに金髪が落ち着いた口調で話すと、また黒髪が口汚なく罵る。


誰しもが不快になるであろう会話に私は耳をたてていた。


それに関して言う事は別にない。

強いて言えば、汚い の一言だろう。

少なくとも、私の知り合いでないし、私に関わってくるわけでもないなら、それは私にとってどうでも良い事だった。