「お前だけは嫌だった。龍に構うのが許せなくて……嫉妬して子供じみた嫌がらせした」
こう言って豹は傘を差し出していた藍楽の手を押し戻した。
再び豹の体を雨が濡らし始める。
ずっと俯いてた豹の表情がいつもの高さになり、藍楽が顔を上げた。
「これで許せとは言わない。……もう関わらない」
力無い声と見たことも無い無表情を浮かべた豹が、端の濡れたピンク色の紙袋を羽織っていたジャケットから差し出した。
「お前の好きなモノ、それしか思い付かなかった」
渡された袋の中には溢れんばかりのお菓子が入っていた。
中庭で龍にお菓子をあげたことや教室でお菓子を食べていたこと。
少ない接点の中から豹がやっと見付けた藍楽の好きなモノが沢山詰まっていた。
「豹先輩っ……」
言い残して立ち去って行く背中に呼びかけても豹は振り返らない。
さっき見せた豹の無表情が頭から離れない。
欲が無い豹が欲しがったモノ……。
自分の傍に居てくれる人。
目の前のそれに豹が手を伸ばさないなら……、
「俺から目を離すなって言ったじゃないですか!」
自分が捕まえて離さなければいい。

