新学期が始まって1ヶ月。
私のあだ名は他のクラスの人にまで伝わっていて、廊下ですれちがう知らない人にまでパンダパンダ呼ばれるようになっていた。

「おはよー笹ぱんだ。」
「今度パンダって呼んだら口きかないよ、薫。」
「ごめんごめんw。でもパンダってかわいくない?」
「私パンダ好きじゃないの。」

幼稚園生の頃最後に家族全員で遊びに行ったのが動物園だった。
その日は小雨が降っていて、檻の中の動物は皆寂しげだった。
中でも、動物園に来たばかりの時は真っ白でふわふわだったパンダは、薄汚れてすごく不幸せそうに見えた。
私はそのパンダが自分みたいに見えた。
不幸で悲しい自分みたいに。
私は今でもパンダと聞くと、あの悲しそうなパンダの顔を思い出す。
だからパンダはあんまり好きじゃない。

「変なの―パンダかわいいのに。」
「まぁいいじゃん。」
「まあね。あっ!次の授業正義せんせいの授業だよ。」

私の学校は英語に力を入れてる学校で、週に英語が6回以上ある。
このクラスは松嵜先生の担当なので、松嵜先生に会う授業が一番多い。

キーンコーン

「今日は関係副詞の用法から復習していきます。」

松嵜先生はパンダって名づけられたから微妙に苦手なんだけど、先生の授業はすごく解りやすい。
クラスでも松嵜先生の授業は人気が高い。
教えるのが上手い先生って多分こんな感じなんだろうな。

キーンコーンカーンコーン

「起立―気をつけ、礼。」

授業が終わって皆が話始める。

「このクラスの英語係ってまだ決めてなかったっけ?」

先生が両手でプリントを抱えながら私に話しかけてきた。

「はい。」
「んじゃいいや、ちょっとパンダ手伝って。」
「えっ?イヤですよ。」
「まあいいじゃん一番前に座ってるんだからさ。んじゃこのプリント2階の準備質まで運んで。」

先生は私の文句なんてまったく聞かずに教室を出て行ってしまった。