「・・・・もう帰る」
 俯いた遊月が小さな声で言う。
 でも気づかないフリをする。
「・・・・帰りたい」
 帰りたい。そう言われると少し傷つく。
 そんなに俺といるのが嫌なのか?
 そんなことばかり浮かんでくる。
 まぁ、それは違うだろうけど。
「もう帰る!」
 突然声を荒らげた遊月。
 かなり腹立っているようにみえる。
 遊月は立ち上がると、教室から出て行こうとした。
「ちょ、遊月待てって」
「離して!」
 遊月の手を掴もうと伸ばした手は振り払われてしまった。
 そしてそのまま出て行った
 ――ズキッ。
 たったこれだけの事が、胸を痛めつける。
 遊月に嫌われた?
 答えの見つからない疑問が生まれた。

【遊月】
 動揺を隠したかった。
 唯斗に抱きしめられた体はすごく熱かった。
 何でなのか自分でも分からなくて怖くなった。
 ただ、唯斗に流されただけなのに、そのまま唯斗の中に堕ちていくのでは。
 そう思うと怖かった。
 こんなに簡単に私は変わってしまうの・・・。
 普通に、普通に時間が過ぎていけばいいのに。
 どうしてこうも大変な方向へ進んでいくのだろうか。
 唯斗には悪いことをしたかもしれないかもしれない。
 だけど、仕方なかった。
 あのまま流されるよりは。
 ちゃんと考えたかった、だから私は足早に教室を去った。