月夜の物語



彼女は、新の声を覚えていた。

その事実に新の心臓はもっと跳ねる。

新はふすまに向いて、正気を保つためにもその場に正座をした。



「昨日は大変なご無礼を…申し訳ございませんでした」

「いえ、いいのです。私こそ大きな声を出してしまって…騒ぎにならなくてよかった」

「あの…、つかぬことを伺いますが、」



新は待てない。辛抱がないのである。

挨拶もそこそこに、すぐに本題を切り出した。



「貴女様は、その…姫様なのでしょうか、」



誰にも聞かれないようにとても小さな声で話したのだが、その声は闇の中で轟いたかのように大きく聞こえて。新は思わず周りを見回した。

幸い、人気はない。



「…………そうです」



しばらくの沈黙の後、尋ねた新の声よりも小さい声で、彼女は答えた。

自分がこの城の、姫君であることを。