月夜の物語



一歩だけふすまに近寄ると、思いもかけず、床が大きく音を立てて軋んだ。

不意のことに、新の体がびくりと震えた。次の、瞬間だった。



「……誰?」



ふすまの向こうから、声。

澄んだ水のような清らかな声だったが、それは少し揺れていた。



「……っ、」

「誰かいるんでしょう」



昨日のように動揺した様子はなく、女性は静かに声をかける。

動揺しているのは、新のほうだった。予期せぬ展開に、心臓が飛び出すのではないかと思うくらいに激しい動悸を感じて。



「夜警の…者、です」

「…その声は、昨日の?」

「………はい」