月夜の物語



「姫、ご機嫌は如何ですか」

「…良い」



翌朝。

姫はぼんやりと昨日の男のことを考えながら、着物を着換えさせられていた。

あれは、警備の者か。



「さぁ、ご自分で袖をお通しになられて」

「…………」



部屋は本来、頑丈に施錠されていて開かないようになっている。

だが昨日は、鍵番が鍵をかけ忘れていたようだ。

そのせいで、泣いているところを見られてしまった。それも、名も知らぬ男性に。

姫は困惑しつつも、少し高揚していた。



自分という存在を、本当は、誰かに見つけてもらいたかった。

毎晩泣いていることも、本当は、誰かに気付いてほしかった。

だから。