駅に着くと、まず雑誌専用のゴミ箱の中から、今日発売の雑誌を全て拾い集めた。

週刊誌などの一般誌を中心に、状態の良いものを探った。

 売店の横やトイレの側のゴミ箱には、それこそ新品同様の雑誌が捨てられ、呻き声を上げていた。

 シローは一冊一冊を拾い集め、折れているページを伸ばし再生した。

 四時間程過ぎると、手に持ちきれない位まで、雑誌は重なっていた。

それを夕方のラッシュに合わせて、駅構内で一冊十円で売りまくった。

改札口から距離を置き、駅員達から死角になる場所を選んで雑誌を並べた。

家路を急ぐサラリーマン達の中には、一冊十円という安さに足を止め、一人で二冊以上買って行く人もいた。

 もう少しで完売という時だった。

巡回していた駅員と目が合ってしまい、仕方なく逃げるようにして板橋駅を後にした。

握った手の中には、売り上げの二百七十円が残っていた。

 シローはリヤカーを引きながら、安堵の溜息を漏らした。

 もう、引き返す事は出来ない。

そう自分に言い聞かせた。

 簡易的な地図の上をなぞるようにして歩き続けると、板橋区を過ぎ、埼玉県に入っていた。