拙い言葉だったかもしれない。

云いたい事の半分も、言えたのか分からない。

「みんなの事は決して忘れない」と付け加えたかったが、それはやめておいた。

もう二度と会えなくなる訳ではないとーーその時は思っていた。

 シローは目線を落とし、二人の手をそっと離した。

うずね火からは、すっかり煙りも消えていた。

 リヤカーのハンドルを跨ぎ、いよいよ出発しようとしていた。

「シローさん!」

 いつもの低いニシヤンの声だった。

「福島は、そろそろ冬が来る頃だろう……。」

 自分のポケットから軍手を取り出し、シローに差し出した。

左手に携えられた二本の軍手は、片方が真新しく、もう片方は黒ずんでいる。

「ありがとう。貰っておくよ」

 シローは軍手を受け取り、両手にはめると、

「二人とも元気でな……。」

 リヤカーを引いて歩き出した。

空に浮かぶ、白い雲も動いていた。

後ろの荷台に乗せた美枝子の亡骸を気遣いながら、福島まで続く道のりを踏みしめた。

美枝子が言っていた丘から、安達太良山に沈む夕日を見せる為に、シローは歩いた。

「頑張れよ!シローさん」

 ニシヤンとチュンサンが、いつまでも手を振ってくれているのがわかった。

 振り向かずに、真っ直ぐ前を見てリヤカーを引っ張った。

そしてーー。

シローの長い、北上の旅が始まった。